ー身近な香りと臭いの植物たちー 匂いのする植物のものがたり「第5回ニオイスミレのものがたり」

投稿日:2023年3月7日

植物、植物のものがたり

第5回ニオイスミレのものがたり


八重咲のニオイスミレ

私たちの身近には、さまざまな植物が存在します。日頃から親しんでいる香りもあれば、ちょっと嫌だな……と感じる臭いなど、それぞれの色や形を持ち、さまざま匂いを放つ植物たち。連載第5回は、「ニオイスミレ」のものがたりです。同時に、雑誌「セラピスト4月号」でも連載をしています。こちらは「オオシマザクラ」を紹介。是非ご覧ください。
文◎指田豊

セラピスト誌で紹介!

ニオイスミレ(写真A)は、花に素晴らしい香りがあります。ヨーロッパから西アジアに分布するスミレです。ヨーロッパでは香水原料として、バラやラベンダーととともに栽培されてきました。日本には明治30年代に導入され、観賞用に栽培されました。その後野生化し、現在では空き地、道端などに生えていることがあります。株元から地表を這う茎を出して広がりますので1カ所に何株も群生します。葉は、基部が深く切れ込んだハート形です。花は、濃紫色の5枚の花弁からなりますが、ピンクや白の品種もあります。巾が約1.8cmあり、日本のスミレに比べて一回り大きい感じです。耐寒性があるために早春からかなり長い期間咲き続けます。

ニオイスミレ写真A ニオイスミレの花

花には、芳香のある精油が0.003%ほど含まれています。すなわち、新鮮な花100kgに含まれる精油は僅か3gです。昔は、アンフルラージュ法と言って薄く広げた牛脂や豚脂の上に花を並べ、花から発する香りを牛脂、豚脂に吸着させることを何回も繰り返し、十分に香りを吸着した脂(ポマードと言います)からアルコールで抽出する方法で香の成分を取っていました。しかし、あまりにも手数がかかること、1972年に香りの主成分がアルファーヨノンであることが分かり、合成されるようになったことから今はやっていません。
アルファーヨノンの価格は、合成なので精油に比べて桁違いに安く、化粧品に盛んに使われるようになりました。そのために、ニオイスミレの匂いを嗅ぐとお化粧をした女性を想起させます。
ニオイスミレの葉は、基部が深く凹入したハート形です。葉にも精油が含まれています。キュウリそっくりの青臭い匂いですが、花の匂いにこれを混ぜることによって、より自然のスミレの匂いになるそうです。

日本には50種ほどのスミレの仲間が自生しています。その多くは無香ですが、ニオイスミレと同じ芳香を持つものがニオイタチツボスミレ(写真B)など、後述のように5種ほどあります。なお、長野県の山地に生えるタデスミレはニオイスミレの匂いとは異なるすがすがしい匂いがします。
一方、いろいろなスミレの葉から、キュウリのような匂いがするようです。私の経験ではパンジー(サンシキスミレ)の花は匂いがしませんが、葉をなでるとキュウリの匂いがします。

写真B ニオイタチツボスミレ

学名(科名)
ニオイスミレ Viola odorata L.(スミレ科)
別名
英語:sweet violet
匂いの部位と匂いの成分
花:アルファーヨノン α-ionone
葉:スミレ葉アルコール violet leaf alcohol、スミレ葉アルデヒド violet leaf aldehyde、いずれも炭素9個で二重結合が2つある化合物です。
似た植物
日本のスミレのうちニオイスミレと同じ匂いのあるものはニオイタチツボスミレ、ノジスミレ、エイザンスミレ(株により無香のものがある)(写真C)、ヒゴスミレ、シハイスミレです。

写真C エイザンスミレ ヒゴスミレとともに、葉に深い切れ込みがある。

話題
ややこしいことにスミレの仲間の中にはただ“スミレ”という名前の植物 Viola mandshurica W.Becker があります(写真D)。花は濃い紅紫色で葉は長さ5cmほどになります。都会の道端から丘陵に見られるごく普通の植物です。ノジスミレに似ていますが、花に匂いはありません。

写真D スミレ

著者プロフィール

指田豊(さしだゆたか)さんさしだゆたか 東京薬科大学名誉教授、日本薬史学会理事、日本植物園協会名誉会員。1971年東京薬科大学大学院修了(薬学博士)、1989-2004年東京薬科大学教授。専門は薬用植物学、生薬学。 定年退職後は薬用植物・ハーブを中心に身近な植物の観察と活用に関して、講演、執筆、野外観察指導などをしている。著書に『薬になる野の花・庭の花100種』(NHK出版)、『身近な薬用植物』(平凡社)他。

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