【連載/植物とともに暮らす】第10回 ハワイの植物と大地

投稿日:2026年6月15日

 


第10回 ハワイの植物と大地


アメリカ西海岸の北カリフォルニア・バークレーに暮らす、民族植物学者でハーブ研究家のウィーバー佳奈さん。海外をフィールドに、さまざまな土地を訪れ、人と植物がどう関わってきたのかについて研究と対話を重ねてきました。

連載第10回目の今回は、佳奈さんにとっての特別な土地であるハワイの植物、そして人々との交流についての話題です。

文・写真◎ウィーバー佳奈
プロフィール写真◎WAvewell Earth Studio

ハワイの地形と生態

5月に、私にとって大切な土地であるハワイ島を訪れました。

普段は冷涼な北カリフォルニアで暮らしている私にとって、ハワイの植物たちはいつも目が覚めるような瞬さで迎えてくれます。

太陽の力と厳しい自然環境の中で逞しく育つ彼らの姿は生命力に溢れて美しく、私も忘れていた感覚が体の中から呼び起こされるような心地がします。

今回は、ハワイで出会った植物、そしてハワイの大地と人の関わりについて、ご紹介できたらと思います。

ハワイ島のコナ空港に降り立つと、甘いプルメリアの香りが空気の中に漂い、空港のすぐそばには溶岩原が広がっています。

ハワイ島は、約40〜50万年前に誕生したハワイ諸島の中では一番新しく、最大の島です。島には5つの火山(マウナ・ケア、マウナ・ロア、キラウエア、フアラライ、コハラ)があり、火山の女神 ペレが宿るとされるキラウェア火山は現在も活発に活動しています。

雪が積もるマウナケアの山頂からジャングルに至るまで、一つの島の中に地球上の13の気候帯のうち11が存在しています。フラダンスをはじめとする文化や神話や歴史の中にも、そうした大自然の力と共に生きる人々の祈りが込められています。

ネイティブフォレストのトレイルにて

ハワイ島の植物

滞在中は、ハワイの在来の植物にも多く触れる機会がありました。中でも、滞在先の方が栽培されていたママキがとても美しく印象的でした。

ハワイの固有種であるママキ(Pipturus Albidus)はイラクサ科の低木で、標高2000m以下の森林に自生する生命力の強い植物です。カメハメハアカタテハという絶滅危惧種の蝶の食糧源でもあります。

ポリネシア人がハワイに住み着く以前からハワイに存在し、伝統的に実や葉がハーブとして用いられてきたほか、樹皮は布やロープとして利用されていたそうです。

生葉を煮出して作られたお茶は抗酸化物質とミネラルが豊富で、滋養強壮や心身の浄化に用いられました。カフェインを含まないため、妊産婦や子供も安心して飲むことができます。

他にも、カカオ、ターメリック、タロイモ、パパイヤ、ライチ、竜眼などの熱帯の野菜や果物や、ハワイの儀式や工芸に用いられるハラ、ティーリーフ、コアなどにも触れることができました。

日本国内では沖縄など限定された地域でしか栽培されないものが多いですが、ターメリック(ウコン)のように比較的入手しやすいものや、ドライハーブなどで手に入れることができるものもあります。

南国に生える植物の中には、夏の暑い季節の心や身体をサポートしてくれる植物も多くあり、これからの時期の心強い味方になってくれるかもしれません。

 

収穫させていただいたママキの葉

ʻĀina Hoʻōla Initiative

今回の滞在の目的の一つは、ハワイ島のヒロで自然環境の再生を行っている非営利団体、ʻĀina Hoʻōla Initiativeの活動に参加することでした。

ʻĀina Hoʻōla Initiativeは、湿地帯「ロコワカ」を拠点に、在来の水生生物や水鳥たちの生息環境を回復する活動を行っています。主催の久美子さんとパトリックさんはハワイ島のネイチャーガイドとしても活動されており、生態系にまつわる知識や経験に加え、ハワイ先住民の人々の自然界との関わり方や、土地にまつわる神話や歴史なども通じて、「マラマ・アイナ(大地を思いやり世話をする心)」を、伝えてくださっています。

当日は仲間と共に現地に集合し、ロコワカの土地の歴史や神話についての話を伺った後、みんなでチャント(祈り)を唱え、大地の手入れを行いました。

強い太陽の日差しが降り注ぐ中、ぬかるむ大地で自分の背丈ほどもある外来の植物を抜く作業は大変なはずなのに、作業をすればするほどエネルギーが湧いてきました。虫たちや、在来の植物が息を吹き返して輝いている様子を間近で見ることができたのも感動しました。

ʻĀina Hoʻōla Initiativeの活動の様子と、主催の久美子さんとパトリックさん

おわりに

ハワイの大地に触れていると、「大地が生きている」という感覚を、あらためてひしひしと実感します。広大な丘に風が吹くたびに、草木が一斉に揺れて、大地全体が呼吸をしているように見えること。

噴火した火山から溶岩が流れ、木々を薙ぎ倒し、それが時間と共に黒く固まり、美しい模様を描いていること。噴火後の生まれたての大地に最初に根を張る植物たちが育っていく様子。たくさんの鳥や、虫や、獣たちが、それぞれのリズムとテリトリーで暮らしていること。少し移動しただけで天気がすぐに変化して、降って止んだ雨の後に光が差して虹が出ること。

「大地が生きて、息づいている」という、当たり前だけど普段の暮らしの中では時に忘れてしまう現実をありありと実感しました。

また、そうした自然界の大きな力を目の前にすると、それとどう向き合っていくか、ということも考えさせられます。私たちは現代文化の中では何かに恐れを感じる時、その恐れを紛らわすためにコントロールしたり、排除したり、目を逸らしたりしがちです。

しかし、ハワイの大地に手を触れたり、広大な溶岩原などを眺めていると、圧倒的な自然の力に対して自然界の不確定な要素に対してコントロールするのではなく、畏怖の念を携えながら共に生きていくしかないのだな、と感じます。

世界のあらゆる伝統的な文化は、人間のコントロールが及ばない自然界の力と向き合っていくための祈りや願い、共に生きていくための工夫が土台にあり、私たちは本来、地球のあらゆる場所で、誰もがそういう感覚を持ち合わせていたのではないかと思います。

自然界に存在するすべての生き物にはそれぞれの役割があります。世界の多くの伝統的な文化の中には、「授かった能力の分だけ責任が生じる」という考え方があります。手足があって自由に動き回れる人間だからこそ、植物の手入れをしたり、大地を整えたり、祈りを捧げたりしながら、世界の中でできることもあるのだと感じました。

溶岩の大地

次回は8月中旬に配信予定です。お楽しみに!

ウィーバー佳奈さん 

植物研究者(民族植物学・環境学)。東京大学とオランダ・エラスムス大学で修士号を取得、カリフォルニア大学博士課程で環境学・生態学・民俗学を横断的に研究。2015年よりアメリカで暮らし、ネイティブアメリカンのコミュニティから伝統知を学ぶほか、アフリカ・中米・欧州などでのフィールド経験を持つ。現在は大学を退き、ハーブによるセルフケアやウェルビーイングをテーマに、SNS、YouTube、雑誌、講演などで発信。科学と伝統知、感性の両面から植物の魅力と可能性を伝えている。

 

●Seed from Earth hhttps://www.seedfromearth.com/
●Instagramアカウント @seedfromearth

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