第2回 フォレジングと季節のハーブティーレシピ

アメリカ西海岸の北カリフォルニア・バークレーに暮らす、民族植物学者でハーブ研究家のウィーバー佳奈さん。海外をフィールドに、さまざまな土地を訪れ、人と植物がどう関わってきたのかについて研究と対話を重ねてきました。
連載第2回目の今回は、佳奈さんが暮らす地域の森に息づくさまざまな植物たちや、植物をただ採集するのではなく、対話とつながりを大切にしながら暮らしに活かす「フォレジング」、野生のものを使って手作りを楽しむ「ワイルドクラフティング」、そして春を迎える前のこの季節にぴったりのハーブティ・レシピをお届けします。
文・写真◎ウィーバー佳奈
プロフィール写真◎WAvewell Earth Studio
早春の植物をあつめる
私がカリフォルニアに来て以来、日々の営みの中に定着した趣味のひとつに、「フォレジング (foraging)」あるいは「ワイルドクラフティング(wildcrafting)」というものがあります。
「フォレジング」は「収穫すること」、「ワイルドクラフティング」は「野生のものを使って(手作業で)つくること」を指し、いずれも野生の植物などを採集して暮らしに活かすことを意味します。
ただ採集するだけではなく、採集活動を通じてその土地の生態系や季節のサイクルを知り、そこに参加する体験を通じて、人々の自然環境に対する意識を育んだり、希少な植物の保全にも配慮するといった側面もしばしば強調されます。
フォレジングは、植物や自然界と深くつながり、対話するためのきっかけにもなります。
ネイティブアメリカンの人々の「スチュワードシップ(stewardship / 大地の世話人)」という考え方に影響を受けている側面もあるようで、採集する際に少しでも環境への負荷を減らすこと、また人間が自然界から収奪するだけではなく、自然界との関わりを通じてその土地をさらに豊かにするようなあり方を目指すことも推奨されます。
収穫するときは、まず植物に尋ねること。その季節の最初の植物は採取しないこと。必要な分だけいただき、無駄にしないこと。他の生き物の分も残すこと。感謝すること。自分も何か捧げること。総じて、自然界へのリスペクトや植物と人間の「互恵関係」が大切にされていて、素敵だなと感じます。
私の暮らす山では、今の早春の季節、さまざまな植物が冬の眠りから目を覚ましてすくすく成長しています。ヨモギやネトル、菜の花、スギナ、ミモザ、木蓮、カリフォルニアポピー、カタバミ、アザミ。静かだった山の景色が一斉に彩られていく様子は、毎年何度眺めても圧巻です。

▲木蓮の花
ちょうどこの記事を書いている今は木蓮が満開を迎えており、私は花びらをそのまま食べたり、蕾をお茶にしたり、シロップにしたり、ピクルスにしたり、乾燥させたり、と木蓮と戯れては華やかな香りと苦味のある爽やかな味にうっとりする日々を送っています。
花をいただくときは必要な分だけいただき、余ったとしても大地に返すようにしています。収穫の際にその植物に尋ねる習慣は長年ずっと続けてきたため、今では息子も真似て実践してくれています。
▲収穫した木蓮の花で作ったお茶
植物とともに、大地との対話の軌跡を「思い出す」
別の側面では、近年、フォレジングを行うことの健康面での利点も注目されています。生命力の高い野生の植物は野生の酵素やプロバイオティクス・プレバイオティクス(※1)を多く含み、私たちの腸内の生態系バランスを大きく変化させることが複数の研究でわかっています。

▲フォレジングの本もたくさん出版されている
直接体内に摂取しなくても、自然の中で植物に触れたり、裸足で大地を歩いたり、森で過ごすだけでも私たちの腸内生態系に良い影響が及ぶと言われています。私自身も実際に普段から野生の植物を採集し、暮らしにとり入れる中で、そのパワフルさを実感しています。
*フォレジングを行う際の注意点としては、他人の私有地や自然保護区域などでの採集は避け、農薬や排気ガスなどの土壌汚染、犬の尿などの衛生面に気をつける必要があるほか、植物の中には毒性を持つものもあるので必ず同定(※2)した上で、それが食べられる安全なものであることを確認してから収穫するようにしてください。
※1
プロバイオティクス…発酵食品などに含まれる生きた微生物。腸内環境を整え、アレルギー抑制・免疫力アップ・コレステロール低下など、健康に貢献する働きをもつ。
プレバイオティクス…オリゴ糖や食物繊維など、腸内にすでに存在する善玉菌の栄養源となり、長期的に腸内環境を健康に保つ助けになる成分。
※2
同定…ある対象(生物、物質、データなど)が「何であるか」を特定し、それが既存の分類やグループのどれに当てはまるかを見きわめる(同一であることを確認する)作業
◯ 季節のハーブティー◯
フォレジングを行う中で、私がネイティブアメリカンの方々から教わった自然界の知恵の中に、「その人にとって必要な植物が、必要なタイミングで、目の前に現れる」という考え方があります。
この地球のリズムは本当に不思議で、季節ごとに大地から自然と生えてくる植物が、その時の私たちの身体にとって必要な栄養素やエネルギーを持っているということがままあります。
きっと、人々は季節のめぐりの中でその時々の植物を採取しながらその作用を実感してきたのだと思います。日本でも言われる「季節のものをいただく」「身土不二」といった教えとも、深いところでメッセージが通じるかもしれません。
私自身も山を散策していて、気になる植物に出合うと、ちょうどそれが自分の身体や心のコンディションにピッタリと合うものである場合がほとんどで、毎回驚かされます。(さらに広く人間界を超えた視点で言えば、その土地や生態系にとって必要な役割を持つ植物が必要なタイミングで生えてくる、とも言われます)。
今の冬から春へ向かう季節にもこれは当てはまります。
冬の間、私たちの身体は活動量が減り、その分体内の循環機能が衰えます。そしてだんだんとあたたかくなり、再び活動を行う春の頃に向けて、身体は自然と冬の間に溜め込んだ老廃物などを体外に排出し始めます。
早春に芽吹く苦味のある野菜や薬草には、この解毒(デトックス)・巡り・排出をサポートしてくれるものが多くあります。ヨモギやネトル、タンポポ、春菊、菜の花、レッドクローバーなど、他の植物に先立って地面から芽を出す力強い野草・野菜たちはその代表です。
春は花粉症に悩む方も多いかと思いますが、解毒や排出を促し、冬から春へ向かう段階の身体の巡りを整えることが、花粉症の症状をやわらげることにつながる場合もあります。ネトルに関しては抗ヒスタミン・抗炎症作用があるため、この季節の強い味方です。前出の木蓮も抗ヒスタミン作用があり、伝統的に季節性のアレルギー症状の緩和に用いられてきました。
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レシピ:ネトルとミントのお茶(カップ1杯分)

材料
・ネトル(セイヨウイラクサ)(乾燥)大さじ1
・ミント(乾燥)大さじ1
・レッドクローバー(乾燥)大さじ1
・お湯 カップ1杯分
①ハーブをティーポットに入れ、お湯を注ぎ、蓋をして1〜2分蒸らす。
②カップに注いで、好みで甘味を加える。
ネトルの抗ヒスタミン作用、ミントの清涼感、レッドクローバーの抗炎症作用がアレルギー症状の緩和をサポートします。
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季節ごとの植物が次々と芽吹き、それぞれに可愛らしく、強いエネルギーを持っている様を見ると、本当にこの地球は美しい奇跡の場所だなと感じます。
皆様も植物たちの力を借りて、心と身体の巡りをととのえながら、季節の変化を楽しんでみてください。

次回は3月23日(月)配信予定です。お楽しみに!

ウィーバー佳奈さん
植物研究者(民族植物学・環境学)。東京大学とオランダ・エラスムス大学で修士号を取得、カリフォルニア大学博士課程で環境学・生態学・民俗学を横断的に研究。2015年よりアメリカで暮らし、ネイティブアメリカンのコミュニティから伝統知を学ぶほか、アフリカ・中米・欧州などでのフィールド経験を持つ。現在は大学を退き、ハーブによるセルフケアやウェルビーイングをテーマに、SNS、YouTube、雑誌、講演などで発信。科学と伝統知、感性の両面から植物の魅力と可能性を伝えている。
●Seed from Earth hhttps://www.seedfromearth.com/
●Instagramアカウント @seedfromearth








