【連載/植物とともに暮らす】第5回 ポリネーターガーデン

投稿日:

 


第5回 ポリネーターガーデン


アメリカ西海岸の北カリフォルニア・バークレーに暮らす、民族植物学者でハーブ研究家のウィーバー佳奈さん。海外をフィールドに、さまざまな土地を訪れ、人と植物がどう関わってきたのかについて研究と対話を重ねてきました。
連載第5回目の今回は、植物と密接な関わりを持つ「ポリネーター」についてのお話です。

文・写真◎ウィーバー佳奈
プロフィール写真◎WAvewell Earth Studio

植物とポリネーター

ミツバチや蝶、蛾、ハエ、さらにハチドリやコウモリなど、植物の受粉を手伝ってくれる存在を「ポリネーター(花粉媒介者・送粉者)」と呼びます。

「ミツバチが地球上から消えたら、4年後に人類も滅びる」という言葉があるほど、花粉を媒介するポリネーターの存在は私たちの暮らしと深く結びついています。

一説には、世界の主要な農作物の約75%は、ポリネーターの助けを借りて受粉していると言われます。生態系を豊かにするポリネーターは自然界において重要な存在であるのはもちろん、衣・食・住すべての場面で植物を暮らしの基盤に置く人間にとっても、ポリネーターの存在はなくてはならないものです。

近年、気候変動や農薬、さまざまな影響により、地球上のポリネーターの数が大幅に減少しています。そんな中で、ポリネーターが好む(ポリネーターの蜜源となる)植物を植えることで、私たち1人ひとりが彼らの生態系を支えることができます。

花が大好きな蝶たち

たとえば、蜂たちは、甘い香りのする、特に青・紫・白・黄色の花を好みます。地表を保護する被服植物にもなるクローバー、香りの良いルピナス、ハーブとしても活用できるセージやローズマリーもおすすめです。

一方、蝶はさまざまな花を好みます。季節を通じてさまざまな花が咲く庭には蝶がたくさんやってきます。エキナセアやカレンデュラ、ジニア(百日草)、サルビアなどがおすすめです。

私の地元である北カリフォルニアで多くの人が意識的に庭やコミュニティガーデンで育てているのはミルクウィードという野草です。

ミルクウィードの花蜜は、季節ごとに海や大陸を超えて長距離の「渡り」をすることで有名な蝶、オオカバマダラの幼虫の食料源です。彼らの越冬地となる森林の伐採や、農薬の使用、気候変動などの影響から、近年は個体数が減少しているオオカバマダラを守るために、ミルクウィードを育てようという気運があります。

オオカバマダラのためにミルクウィードを植えようというメッセージ

ちなみに、日本のアサギマダラの幼虫も、同じくキョウチクトウ科(旧分類ガガイモ科)の植物を食料源とします。

蛾も大切なポリネーターで、中でも夜行性のものは夜間に花粉を運びます。蛾は香りが高く白っぽい色の花を好むとされます。私自身は、かつて日本に住んでいた頃は蛾に対して比較的マイナスイメージを持っていたのですが、山暮らしをするようになり毎晩たくさんの蛾の姿を眺めているうちに、フワフワで可愛らしい蛾の虜になってしまいました。

鳥も虫も、みんな生命の担い手

カリフォルニアポピーとマルハナバチ

花の蜜を吸う小型の鳥もポリネーターです。ハチドリやウグイス、メジロ、ヒヨドリなどがその例です。

日本で見かける鳥媒花(鳥が花粉を媒介する花)には、ウメ、モモ、サクラ、アンズ、ツバキ、サザンカ、ビワなどが挙げられます。虫たちがまだ活動を開始しない冬の時期に花粉を媒介する鳥たちもいます。

他にも、その他、てんとう虫を含む甲虫類、アブ、ハエ、コウモリ、ヤモリなどの爬虫類、小動物など、さまざまな生き物が花粉を媒介しています。

ラベンダー、レモンバーム、ミント、カレンデュラ、ボリジ、多くのハーブの花は多くのポリネーターが蜜源として好み、人間にとってもメディカルハーブやエディブルフラワー(食用花)として活用できるものが多くあります。

また、地域の風土に馴染んだ在来植物も素晴らしい選択肢です。在来植物は環境への負荷が低く、育ちやすく、在来のポリネーターの生態系にも合うのでおすすめです。

コミュニティガーデン文化

世界各地で広まっている「コミュニティガーデン」も、このポリネーターを支える大切な仕組みです。コミュニティガーデンは街中に存在する市民農園のようなもので、地域のコミュニティで運営されているガーデンや農園を指します。

日本のように地域の人へ向けて区画貸しするガーデンもあれば、地域のボランティアの人々で土地を共同管理して作物を分かち合うガーデン、教育目的で運営されているガーデン、在来植物の保全のために設けられたガーデンなど、特色はさまざまです。

私の暮らす地域には、学校の校庭に設けられたガーデンを含めると100以上のガーデンが街中に存在すると言われます。

こうしたガーデンにもポリネーターの好む植物が植えられていることが多く、人間の多い街中でもポリネーターの生態系を支えています。

街路脇の小さな隙間に在来植物の保全のために設けられたガーデン

蜂のために在来植物を植えているガーデンのサイン

種を蒔くときは一度に三粒

種を蒔くときは一度に三粒蒔く。

一粒は空を舞う鳥のため。

一粒は地の中の虫のため。

最後の一粒は人間のため。

これは世界各地でさまざまなバリエーションで展開されながら伝えられる言葉です。おそらくこれは、一度に数粒ずつ種を蒔くことで植物がよく育つ、という農法を伝える言葉である一方で、人間だけでなくさまざまな生き物が共存する世界観も表しているように見えます。

人間は単体では地球で生きることはできず、虫や鳥や獣たちが生きることができる世界でこそ、他の生命も生きることができます。

この春、お庭やベランダで植物を育てる予定のある方は、ぜひポリネーターの好む花も一緒に育ててみてください。きっとお庭の小さな生態系をさらに豊かなものにしてくれるはずです。

次回は5月4日(月)配信予定です。お楽しみに!

ウィーバー佳奈さん 

植物研究者(民族植物学・環境学)。東京大学とオランダ・エラスムス大学で修士号を取得、カリフォルニア大学博士課程で環境学・生態学・民俗学を横断的に研究。2015年よりアメリカで暮らし、ネイティブアメリカンのコミュニティから伝統知を学ぶほか、アフリカ・中米・欧州などでのフィールド経験を持つ。現在は大学を退き、ハーブによるセルフケアやウェルビーイングをテーマに、SNS、YouTube、雑誌、講演などで発信。科学と伝統知、感性の両面から植物の魅力と可能性を伝えている。

 

●Seed from Earth hhttps://www.seedfromearth.com/
●Instagramアカウント @seedfromearth

おすすめ記事

快眠・熟睡にいざなう“完全脱力”の自力整体ワーク動画を公開!

    現在販売中の「セラピスト4月号」では、特別企画「骨格・内臓・心を緩めて、身も心も完全脱力!熟 …

龍にまつわる伝承と、月にまつわるエトセトラ

こんにちは。 2024年のスタートから1週間が経ちましたが、お正月に帰省した実家でちょうど話題が出たので、今日は今年の干 …
no image

セラピスト8月号、「講師になる。スクールを開く。」特集

現在発売中の「セラピスト8月号」第1特集は、「アロマとハーブの講師になる。スクールを開く。」です。 その中で、銀座ヒーリ …

新刊&新作DVD