ー身近な香りと臭いの植物たちー 匂いのする植物のものがたり「第2回オミナエシのものがたり」

投稿日:2022年9月5日

指田豊、植物

第2回オミナエシのものがたり

クズ

身近にあるけれど、実は詳しく知らない。そんな植物のエピソードを薬学博士・指田豊さんが紹介する当連載。私たちが日頃から親しんでいる香りもあれば、ちょっと嫌だな……と感じる臭いなど、植物はそれぞれの色や形を持ち、さまざま匂いを放ちます。連載第2回は、「オミナエシ」のものがたりです。同時に、雑誌「セラピスト」でも連載をしています。こちらは「イチョウのものがたり」を紹介。是非ご覧ください。
文◎指田豊

セラピスト誌で紹介!

秋の七草のひとつ、オミナエシは山里の草原、林縁、道端などの明るい場所に生える大型の多年草です。秋には高さが1mほどになり、枝の先が細かく分かれてそこに小さな黄色い花を多数つけます。花は直系が4mmほどで先が5裂して平らに広がり、小さいながらよく整った美しい姿をしています。葉は対生し、長さ5〜15cmほどで、羽状に深く切れ込んでいます。葉は明るい緑色、花は鮮黄色のきれいな野草です。

万葉集にはオミナエシを詠んだ歌が14首載っています。ほとんどがオミナエシを好きな女性にたとえた歌です。ところがこの可憐なオミナエシは生のときは無臭ですが、しおれたり傷ついたりしたときは、蒸れた足の裏の臭い、あるいは履きつぶした運動靴の臭いのような悪臭を発します。
オミナエシを花瓶に挿しておくと花瓶の水が臭くなることはよく知られています。これは細胞が死ぬと発生するイソ吉草酸によるものです。

オミナエシは、女(オミナ)の飯(エシ)という意味で、当時の女性が食べていた粟(あわ)を炊いた黄色いご飯が、オミナエシの小さな黄色い花に似ているからという説があります。平安時代になると、オミナエシは女郎花と書くようになりました。この頃の女郎は高貴な女性という意味ですが、江戸の中期から遊女を指すようになりました。ということですのでオミナエシは決して遊女の花ではありません。

中国ではこの植物を敗醤と言います。醤(日本では“ひしお”と読みます)は肉、魚、豆などを食塩と共に発酵させて作る調味料のことで、敗醤は醤が腐敗した臭いがするという意味です。中国の一部の省では苦菜と呼んでいます。この中国での発音はわかりませんが日本人ならクサイと読むでしょう。まさにその通りです。

写真1 オトコエシ

オミナエシが生えているのと同じような場所に、白い花を付けるオトコエシ(写真1)も生えています。草丈はオミナエシより高くて葉も大きく、茎と葉には毛が多くて確かにオトコ的です。しおれると悪臭を発するのは同じです。
面白いのは、オトコエシは株元から地を這う茎を何本も出し、その先に子苗を作るのですが、オミナエシの方はそのようなことはしません。オトコの方が子どもを作るのです。オミナエシとオトコエシの混生している場所では、両植物の雑種も見つかることがあります。オトコオミナエシと言います。オミナとオトコ、それも臭い仲なので雑種ができやすいのかも知れません。

学名 (科名)
オミナエシ Patrinia scabiosifolia Link
オトコエシ P. villosa (Thunb.) Juss.
オトコオミナエシ P. x hybrida Makino
(スイカズラ科)

別名
粟花
英名
Patrinia
話題
オミナエシの根を敗醤根(はいしょうこん)(写真2)と言い炎症を治し、化膿を止め、血流をよくする効果があります。

写真2 敗醤根(はいしょうこん)

匂いの部位と匂いの成分
全草:イソ吉草酸 isovaleric acid

著者プロフィール

指田豊(さしだゆたか)さんさしだゆたか 東京薬科大学名誉教授、日本薬史学会理事、日本植物園協会名誉会員。1971年東京薬科大学大学院修了(薬学博士)、1989-2004年東京薬科大学教授。専門は薬用植物学、生薬学。 定年退職後は薬用植物・ハーブを中心に身近な植物の観察と活用に関して、講演、執筆、野外観察指導などをしている。著書に『薬になる野の花・庭の花100種』(NHK出版)、『身近な薬用植物』(平凡社)他。

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