ー身近な香りと臭いの植物たちー 匂いのする植物のものがたり「第9回バニラのものがたり」

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植物、植物のものがたり

最終回 バニラのものがたり

私たちの身近には、さまざまな植物が存在します。日頃から親しんでいる香りもあれば、ちょっと嫌だな……と感じる匂いなど、それぞれの色や形を持ち、さまざまな匂いを放つ植物たち。連載第9回目は、「バニラ」のものがたりです。同時に、雑誌「セラピスト12月号」でも連載しています。こちらは「リュウノウギク」を紹介。是非ご覧ください。
文◎指田豊

セラピスト誌で紹介!

バニラはチョコレートやアイスクリームなどの香り付けに使われる、多くの人に好まれる香り物質の“バニリン”の原料植物としてよく知られています。この植物は中央アメリカのメキシコ、パナマ、西インド諸島原産の長さ10mにもなるつる性の多年草で(写真A)、地上の茎の途中から多数の気根(きこん)を出し、この気根が木の幹などに貼り付いて茎が伸びていきます。また、この気根は外側がスポンジ状で、水分の保持や吸収にも役立ちます。葉は長さ10〜20cmの楕円形で先はとがり、やや厚みがあります。その葉の腋から花穂(かすい)を出し、直径が5〜8cmの黄緑色の花を付け(写真B)、穂の下から順次咲いていきます。

写真A バニラ。つる性で、気根で木に貼り付くようにして伸びてゆく
写真B バニラの花 色は黄緑色

花後にできる果実は長さが15〜30cmあり、細長くて豆の莢(さや)のようなので、バニラ豆 (vanilla bean)といいます(写真C)。しかし、果実にはまったくバニリンの匂いがしません。それはバニリンが糖と結合した配糖体(はいとうたい)の形で存在していてまったく揮発性がないためです。そこで果実が緑色で、そろそろ黄色くなる頃に収穫し、熱湯に浸けて細胞が死んでから毛布や筵(むしろ)などに包んで、何日間も発酵させます。そうすると配糖体から糖がはずれてバニリンが生成します。この製法で抽出されるバニリンの含量は2〜3%です。

写真C バニラの果実

発酵した果実は暗褐色になり(写真D)、表面にバニリンの微細な結晶が付いてきらきら光っていることがあります。また、中には黒っぽい粉のような種子がたくさん入っています。
アメリカ大陸の発見以前に、すでに現地ではこのように発酵させ、バニラをチョコレートの香り付けに使っていたそうです。探検家によりこれがヨーロッパに紹介されたのは16世紀になってからです。その後、熱帯各地で栽培されるようになりました。大きな産地のひとつがアフリカ西部のマダガスカル島です。 繁殖方法についてですが、原産地から持ち出した種子を他国で蒔いても芽が出ません。それは、蒔いたところに根に共生する菌がいないと芽が出ないためです。その理由で、株分けで増やします。また、花が咲いてもバニラを訪れて花粉を媒介する昆虫がいないと果実ができません。そこで人手によって授粉をしています。

写真D 発酵して完成したバニラ

バニリンは貴重な香料ですが、丁子(クローブ)の精油の主成分であるオイゲノールから容易に合成できるようになりました。また、木材からパルプを作るときの廃液であるリグニンスルホン酸を酸化することでも得られます。
廃液から得られるとあっては、素敵な香りのバニリンのイメージが壊れそうですが、実はもっとすごい研究があります。
国立国際医療センター研究所の山本麻由氏が牛の糞からバニリンを抽出することに成功し、2007年にイグノーベル化学賞を受賞しました。牛糞に水を加えて加熱することで、牛糞1gあたり約50㎍のバニリンが抽出されたそうです。これも糞の中に含まれているリグニンスルホン酸が原料のようです。

●バニラの主産地、マダガスカル島で発行されたバニラの切手

学名(科名)
バニラ Vanilla planifolia Andrews= V. fragrans (Salisb.) Ames (ラン科)
匂いの部位と匂いの成分
発酵した果実:バニリン vanillin

著者プロフィール

指田豊(さしだゆたか)さんさしだゆたか 東京薬科大学名誉教授、日本薬史学会理事、日本植物園協会名誉会員。1971年東京薬科大学大学院修了(薬学博士)、1989-2004年東京薬科大学教授。専門は薬用植物学、生薬学。 定年退職後は薬用植物・ハーブを中心に身近な植物の観察と活用に関して、講演、執筆、野外観察指導などをしている。著書に『薬になる野の花・庭の花100種』(NHK出版)、『身近な薬用植物』(平凡社)他。

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