効率や経済優先の食から生命を守る本来の食へ 豊穣の秋! 自然農の圃場から

効率や経済優先の食から生命を守る本来の食へ豊穣の秋! 自然農の圃場から

実りの秋! 収穫した豊受米を手に笑顔の由井さんとスタッフの皆さん。
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うだるような真夏の暑さが過ぎ去れば、もう少しで美しい実りの秋。
今も日本各地にさまざまな秋の祭りが伝わります。
食が生まれる現場から離れて暮らす現代人はつい忘れてしまいますが、秋は本来、収穫を喜び、豊かな自然の恵みに、生命の営みに、八百万の神に、あらゆるものに感謝の祈りを捧げるべき季節なのです。
日本豊受自然農株式会社代表の由井寅子さんに、生命を育む食と、自然とともに営む自然農の話を聞きました。
取材・文◎本誌編集部

すべてに感謝!
実りの秋に考える本来の農業

「実りの秋! 百姓にとって一番嬉しい季節です。米や麦が穂を垂れるのはもちろん、サツマイモ、落花生、生姜……。それまで頑張ってきたのが報われて、『あぁ、本当にありがたい!』となるわけです」宝物を思うような眼差しで、由井寅子さんはしみじみと語り始めました。

そんな、自然の恵みに、循環するすべての存在に感謝する季節ではありますが、農業は決して楽しいことばかりではありません。収穫目前のタイミングで台風に襲われたり、害獣に作物が食べられてしまったり、ときには作物が土地に合わず、ほとんど育ってくれないことも。

「思うようにいかなかったときにこそ、いろいろ考えるんですよね。上手くいかなくても腐らないで、次を考える。作物が土地に合うまでには時間がかかりますし、欲を出しすぎると手痛いしっぺ返しがくることも。作り手の思いや行動が、作物の出来に如実に反映されます」

子どもたちと一緒に生姜の収穫!

「ジンジャーは、一年を通して私たちの身体に必要な栄養の宝庫です!」。

由井さんによると、人間の一方的な都合で育てられた作物ほど、いざというときに虚弱なのだそう。例えば数年前、この地域を大型の台風が襲ったときのこと。背が伸びると倒れやすいからと低く品種改良された稲は台風で水没。収量増のために脱粒しにくい品種改良をほどこされ、ふんだんに化学肥料を与えられた稲穂は、その重さと、化学肥料で甘やかされて育ち、根がしっかり張れていないため、風に倒れました。そんな中、甘やかされずに育ったた豊受自然農の稲たちは、栄養を求めて根がしっかりと大きく張っていたので、暴風雨の中を耐え抜き、すっくと立っていたそうです。

植物の霊性の高さと
作物が教えてくれること

雨や風雪からだけではなく、暑さや寒さ、虫や鳥、動物からも、植物は逃げ出す術を持ちません。しかし、植物たちは驚くべき力でその環境に順応し、花や実をつけ、次代に生命をつないでいきます。由井さんが常々「植物の方が人間より霊性が高い」と口にする所以でもあります。そんな作物の持つ力を信じ、のびのびと育つための手助けをするのが土と種を大切にする、由井さんたちの実践している自然農。そこには、ここで育った作物たちへの絶対的な信頼があります。

「秋の終わりに、種芋にするサツマイモを蔵に置いておきます。すると、蔵には太陽の光なんてまったく入らないのに、3月になると勝手に『春が来たよ!』と芽を出すんです。これを切り分けて被覆し、保温しておくと、1つのイモから30本くらいの苗ができます。6月頃、50㎝くらいに育った苗を畑に挿していけば、秋には見事にたくさんのサツマイモが採れます。あまり肥料を必要とせず、痩せた土地でも育ち、病害虫にも強く、さらに主要穀類に劣らぬ栄養を持つイモは、本当に素晴らしいです」

しっかりと大地に根を張り丈夫な、豊受自然農場の豊受米(写真右側の水田)。

ちょっとやそっとの台風ではビクともしない。左側は、隣の区画の慣行農法の水田。
誰もが大満足!の、秋の収穫祭。

そんなイモには、何度も人間の食糧危機を救ってきた歴史があります。そして、毎年秋に開催される豊受自然農場の秋の収穫祭では、子どもたちが宝探しをするかのように目をキラキラと輝かせ、夢中になってイモを掘る姿が。その笑顔を見ることが、何ものにも代えがたい喜びのひとつ。そして、そんな素敵な体験を子どもたちに安心・安全に提供できるのも、身体や環境に害のある農薬などがまったく使われていない肥沃な土壌だからこそ。こういった本当の豊かさを提供し続けていきたいと、由井さんたちは考えています。

また、農作業を通じて、作物たちは多くのことを教えてくれるそう。「楽をしようとして失敗してしまったこともありますよ」と、由井さんは思い出して苦笑い。

それまで旧式のごんべえ※を使って1列ずつ種播きをしていた大豆畑で、ある年に効率アップのために4連の播種機を導入。すると、畑の凹凸で種を播ききれない場所ができ、畑はスカスカに。結果として収穫量も落ちてしまったとのこと。「土地の神様に感謝して、すべての生命に感謝して……それなのに、大切な種を播くときに、やはり手を抜いてはいけませんでした。自分の手でごんべえを押して、穴に種が入るのを確認しながら播くことが大事でした」。それを実践した今年は、やはり見事な大豆畑が育っているそうです。

子どもたちはもちろん、大人も夢中になって芋を掘る。
自然に育ったニンジンは個性的! 「見てみて~!」

「今年の夏は、37℃とか本当にとんでもない暑さの日もあったでしょう? でも、その過酷な暑さの中で豆は育ち、強い陽射しを受けて光合成を行います。厳しい環境に耐え、立派に育ち、次の種を残す。利他そのものです。作物たちは人間との関わりの中で、人間のために栄養やミネラル豊富な作物を提供したいと願っているのです。そして人間からの感謝や愛が生きる喜びとなっています。これが本来の作物と人間の関係です。その関係が、今は薄れてしまっているように思います」

※ごんべえ:人力の農機具の一種で、種播きに用いる。

1列ずつの作業にはなるが、作業をしながら目視できるごんべえでの種播きは確実で、

労を惜しんだことによる失敗の心配はない。
厳しい暑さや乾燥などの過酷な環境でも力強く実るトマトたち。

手を加えていない分、収穫期間も長い。
ごんべえで1列ずつ種を播かれ、

スクスクと伸びていく今年の大豆たち。

百姓を育てることは
人を育て、霊性を高めること

同様に、暑い日も寒い日も、たゆまず農作業に励む豊受自然農場の百姓たち。大切な食を生み出し、生命を守り地球を守る仕事に、ただただ頭が下がります。由井さんたちの想いに共感し、豊受自然農での新たな人生を選ぶスタッフたちの前職は、医療関係者から自衛官、IT関連、教師まで実にさまざま。ほとんどの場合、初めての農作業で効率も悪く、給料を出すと赤字になるほどだとか。

本人にとっても、指導にあたる農場のベテランスタッフにとっても、そして経営する側の由井さんにとっても辛い時期ですが、作物同様「大きく育ってね!」の願いを込め、根気よく自然農を営むための人となりを育てていくのだそうです。

「精一杯やっても思うようにできず、初めはみんな悔し泣き。そんなときは『悔しくても、それが今の君だよ。これをバネに食らいついて、這い上がっておいで』と、努力を認めて励まします。できないこと、効率の悪いことは決して責めない。逆に、少しばかりできるからといって、それを鼻にかけるようなスタッフには厳しくしていますね」

東京暮らしをしながら、毎週必ず農場を訪れる由井さん。

その度にスタッフ1人ひとりに声をかけ、励まして回る。

それぞれ異なる背景や価値観を持つスタッフ同士、人間関係のトラブルもしばしばありますが、お互いに腹を割って話し合わせ、各自のネガティブな感情の根本原因までを探り、心から理解し合える関係づくりに努めているそう。「作物だけじゃなく人も育てて、土だけじゃなく職場の雰囲気も作って。毎週農場に行く度に、霊性の高い作物をつくるために作業にあたる自分たちも霊性を上げていくように指導します。大変ですがね」と笑う由井さん。

ですが、根気強く、将来のために〝今〟に種を播くという姿勢には、農業にも、人づくり・組織づくりにも通じる、深い愛を感じます。効率重視の慣行農業や、利益を優先して非効率を切り捨てるビジネスライクな考え方は、結局はその場しのぎ。〝今だけ・自分だけ・お金だけ〟ではなく、気の遠くなるほどの時間や手間がかかっても本物を育てていく―。現代社会に生きる日本人が忘れてしまった大切なことを教えていただきました。

人づくりも土づくりも、しっかりやろうと思えば長い時間がかかり、一筋縄ではいかない。

しかし由井さんは「社員は家族ですから! 私は人づくりに一番力を入れています」と愛情深い目で語ってくれた。
農場で開催される春の花摘みツアーでの1コマ。

何度もぶつかり合い、時間をかけて本音をさらけ出し合っていく中で、

スタッフ同士に固い絆が生まれ、最高のチームとなっていく。
豊受自然農場で採れたカボチャ。

なぜか洋梨のような形に育っているが「自然農の野菜は、環境に合わせて好きな形に育つんです。

人間と同じで1つひとつにのびのびと個性があって面白いですよ」と由井さん。もちろん、味は最高!
霊峰・富士山を望む豊受自然農場の水田。
美しい日本の原風景がここにある。

何よりも大切な
食の安全が今、危機的な状況に

しかし今、残念なことに経済優先の社会で主流となってしまった〝今だけ・自分だけ・お金だけ〟の考えが、何よりも大切な食の生産現場までを脅かしつつあります。

種苗法の改悪、一代限りで種をつけないF1種子、遺伝子組み換え、ゲノム編集、放射線育種米……。効率優先の慣行農業による農薬漬けの野菜ごときは、まだまだ序の口と思えるほどのおぞましさです。

その圃場でもっともよく実ったものから採った種で翌年の作物を育てる―。そんな本来の農業の営みである自家採種が制限され、農業メジャーの支配する種子を大企業の利益のために毎年買わされる「種苗法」。不妊の原因との指摘もある不自然な〝種ナシ〟の「雄性不稔のF1種子」。例えば食べた虫が死ぬような殺虫成分を作る遺伝子が組み込まれた「遺伝子組み換え」コーン。この遺伝子組み換えよりリスクがあるのに、表示義務をなくし有機JAS認証まで検討されている「ゲノム編集」作物。米の遺伝子を、強力な放射線である重イオンビームで破壊することで開発された「放射線育種米」……。

先端を鹿に食べられてしまった芽もあるが、生命力が強い大豆はここからまた伸びていく。

「ここは国民が、日本中の親御さんが、自分たちの生命を、子どもたちの生命を、将来の地球環境を守るために、勇気を出して立ち上がらなきゃいけないところなんです!」。由井さんは声を大きくします。

東日本大震災と福島第1原発の事故の直後、東北や東日本の農作物を避けた人も多いでしょう。ですが、それどころではない危機が、日本の食卓を密かに蝕んでいたのです。

「農家さんに話を聞いたんですよ。放射線育苗米ではない米を作れないのか?と。同調圧力があって難しいと言っていました。慣行農業もそうですね。自分のところだけ無農薬にすると村八分にされると。でも、そうは言いながら、自分たちの家族が食べる分の米や野菜は裏庭で無農薬で作っていたりする。私は聞きたいです。『あなたの子どもと、あなたが作った野菜を食べる、都会に住む知らない子どもと、生命の重さに違いはありますか!?』」

想像力を働かせて
子どもたちの未来へ愛を

お米や野菜を作るとき、食べる人のことを考えるように、物事の全体、行動の末端までを考えることが大切だと、由井さんは語ります。

虫が邪魔だからと殺虫農薬を、草抜きが面倒だからと除草剤(グリホサート)をまき、洗濯が便利だからと界面活性剤入りの合成洗剤などを使い、それが流れ込む川や海の水、そこに住む生物たちはどうなるのでしょうか? 日持ちさせるために防腐剤をたっぷり使った食品を摂り続けたら、私たちの臓器は?

「私たち人間にとって、何よりも大切なのは、未来へ生命をつなぐことでしょう。そのためには、持続可能な地球を残さなければいけません。空気も、水も、海も、森林も、田畑も、種も、決して特定の誰かのものではなくて、地球に生きるすべての存在のものです。綺麗な湧き水は、土の中で100年もの時間をかけて作られます。そんな大きな循環の中に、私たち人間も存在しています。

だからこそ、豊受自然農場では、虫や鳥も完全には排除しません。作物の方も優れた力を発揮し、一番小さく弱い個体だけが跡形もなく集中的に虫や鳥の餌になり、他の個体を無傷に近い形で残すのです。〝植物の方が霊性が高い〟ということが分かりますね」と由井さん。

さらに、未来に生命をつなぐためには、危険なもの・安全の確認ができない得体の知れないものを、むやみに子どもたちの身体に入れないことも大切です。そして、〝今だけ・自分だけ・お金だけ〟ではなく、愛する我が子と同じように、誰もが誰かの大切な子どもであるということに気づき、想像力を働かせること。それが、大人である私たちの責務でしょう。

豊受自然農の作物を原料にした安心・安全な商品たち。

甘酒や野菜ジュースといった加工食品から、スイーツ、コスメまで幅広い品揃えだ。

本物の味を伝え
生命を未来につないでいくために

さて、日本人にとってのソウルフードは、何といってもお米です。穀類を食べるようにできている日本人の身体には、やはりオーガニックな昔ながらの日本の食生活が一番だと由井さん。かつて自身の患った潰瘍性大腸炎も、オーガニックな食事とホメオパシーとで克服しました。

「宮沢賢治は『雨ニモ負ケズ』で〝一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲ食ベ〟と書きましたが、自然農の玄米と野菜と発酵食の味噌、そしてお漬物や梅干しで塩分を食べられれば、本当はそれで十分なのです。アレルギーで何も食べられないという状態の人たちでも、本当の純粋なオーガニックなものなら食べられるわけです。食を正せば、ジュクジュクのアトピーも喘息も治るんです」

とはいえ、1日3食、家族全員が口にするすべての食材に細心の注意を払うというのは、残念ながら現実的ではありません。

由井さんにそれを伝えると「例えば子どもにとっては、自分だけファストフードを食べられないとか、仲間外れが一番辛いことですね。ある程度は多目に見てあげましょう」という答え。そのうえで「代わりに、時々でも良いので、自然農の野菜でできた〝本物の味〟を食べさせて、素材の味が分かる舌に育ててあげてください」とアドバイスしてくれました。「素材の味が分かるようになってさえいれば、不自然なものを食べたときに違和感を覚え『あれ?』と気づけるようになれます。そして、いつかは食の大切さにも気づくことができるでしょう」。

また、豊受自然農では、忙しい日本人の食生活を少しでも良くしていくために、自然農の食材でできた長期保存可能なお弁当を開発しようという計画もあるそうです。実現はもう少し先になりそうとのことですが、より多くの人に〝本物の味〟を知ってもらい、食の大切さに気づいてもらうためには最高の商品となることでしょう。自然の恵みや地球の循環に感謝しつつ、そのお弁当が当たり前のものになる日を、楽しみに待ちたいと思います。

豊受自然農の東京事務所にある神棚には、感謝を込めた神饌が。

農作業を始める前にもいつも祝詞を唱えているという。

Profile

由井寅子さん
ゆいとらこ 日本豊受自然農代表として、農薬・化学肥料を使用せず、自然な種、土づくりにこだわった豊受式自然型農業を実践し、無添加商品の六次産業化に取り組んでいる。日本におけるホメオパシーの第一人者であり、体・心・魂を三位一体で治癒に導くZENホメオパシーを確立。難病に苦しむ方を救っている。インナーチャイルドを癒し、健康で幸せに生きることができるよう、自然生活を取り戻すことに力を注いでいる。

― 取材協力 ―

日本豊受自然農株式会社
TEL03-5797-3371
https://toyouke.com